第 期 Shunro period
用語説明
・この特集に出てくる主な用語の説明(50音順)です。
・([ ])は、この用語に関係する作品の番号です。
〈あ行〉
藍摺り(あいずり)
藍一色で摺られた浮世絵版画。文政期頃より、発色の鮮やかな舶来のベロリン藍(通称「ベロ藍」)を用いた、爽やかな風景画や花鳥画が流行しました。([89][102])
浮絵(うきえ)
西洋の透視遠近法を真似て、空間の奥行きや距離感を強調した絵。近景が手前に浮き出て見えることからこの名で呼ばれました。([6][7][22])
団扇絵(うちわえ)
団扇に貼るために団扇形に摺られた浮世絵版画。実用品のため団扇の状態で残っているものは少なく、現存作品の多くは、切り取られずに紙に摺られたままのものです。([102])
絵手本(えでほん)
絵を学ぶための手本とされた図のこと。有力な浮世絵師は、数多くの門人や私淑者を抱えており、彼らのためにしばしば版本や肉筆の絵手本を制作しました。([67-76][100][108])
大首絵(おおくびえ)
役者絵や美人画で、胸から上、または面貌部を大きくとらえた絵のこと。人物の心情や性格にまで迫る細やかな表現が可能となりました。([26])
おもちゃ絵(おもちゃえ)
おもちゃとして用いられた浮世絵で、江戸時代には「手遊び絵」と呼ばれました。福笑い、凧、双六をはじめ、もの尽くし絵、組上絵など、種類は多彩です。([5][45][93])
読み方:凧=たこ/双六=すごろく
〈か行〉
黄表紙(きびょうし)
絵草紙(草双紙)の一種で、大人向けの絵入り小説。1冊は5丁(10ページ)程で、数冊で1部(1作品)となります。名称は表紙が黄色であることに由来します。([17][18])
読み方:草双紙=くさぞうし
狂歌本(きょうかぼん)
狂歌とその内容に即した挿絵を組み合わせた版本。各ページで狂歌と絵を組みあわせた狂歌本と、狂歌と挿絵のページがそれぞれ独立した絵入り狂歌本があります。([30][32][34][35][97][98]など)
校合摺(きょうごうずり)
版下絵を基にして作られた主版(輪郭線の版木)から最初に摺られたもの。この輪郭線だけの校合摺から色版を作るための色指定がなされます。([85])
読み方:主版=おもはん
金銀摺(きんぎんずり)
金属の箔や粉を用いた摺り技法。高価な材料を使った手の込んだ摺りであり、採算度外視で制作された摺物でよく見られます。メタリックな質感により豪華な印象を受けます。([48][63])
組上絵(くみあげえ)
厚紙に貼って切り抜き、組み立てるおもちゃ絵。別に組上燈籠絵、上方では立版古ともいいます。大がかりな立体模型は、完成後にロウソクを立てて燈籠のようにして楽しまれました。([45])
読み方:燈籠=とうろう/立版古=たてばんこ
〈さ行〉
地潰し(じつぶし)
主に人物等の背景を一色で潰す摺り技法です。黄色で潰したものを「黄潰し」、藍色で潰したものを「藍潰し」などと呼びます。([12][85][88][91])
読み方:黄潰し=きつぶし/藍潰し=あいつぶし
初摺(しょずり)
浮世絵版画でごく初期に摺られたもの。版木の摩滅や欠損がなく、また絵師による当初の摺り指定が反映されていることから重要視されます。対して後に摺られたものを後摺と呼びます。([42][69][106]など)
読み方:後摺=あとずり(のちずり)
摺物(すりもの)
裕福な趣味人らが私的目的(大小、狂歌・俳諧摺物、追善・襲名摺物など)で作った非売品の浮世絵版画のこと。多くは高級な材料を用い、彫りや摺りにもこだわって制作されました。
扇面画(せんめんが)
扇に描かれた絵で「扇絵」ともいいます。平安時代より生活を彩る日用品や贈答品として普及しました。主に肉筆画で、浮世絵師による席画の作例が知られています。([77][78])
揃物(そろいもの)
あるテーマのもとにシリーズ化された浮世絵版画のこと。例えば、北斎の《冨嶽三十六景》は全46図の揃物です。人々の購買意欲を高め、長く関心を引くための有効な出版戦略でした。([4][23][81-92])
〈た行〉
大小(だいしょう)
江戸時代の陰暦では、1ヶ月が30日の「大の月」と29日の「小の月」の並びが毎年変化し、また年により閏月が加えられました。「大小」はこの年ごとの大小の月順や閏月の有無を示す暦で、大小の月を絵や詩歌の中に巧みに潜ませる趣向が流行りました。([13][94])
読み方:閏月=うるうづき
東海道物(とうかいどうもの)
東海道をテーマとした揃物で、出発地の日本橋、東海道の53の宿場、終着地の京から成ります。特に歌川広重の《東海道五拾三次之内》(保永堂版)が有名です。([29][41][42])
読み方:東海道五拾三次之内=とうかいどうごじゅうさんつぎのうち
〈な行〉
肉筆画(にくひつが)
絵師が絵筆で紙や絹などに描いた絵のこと。版画が複数摺刷されるのに対して一点物であり、個々の浮世絵師の造形力をストレートに鑑賞できる点が魅力です。
錦絵(にしきえ)
複数の版木(主版と色版)を摺り重ねる高度な多色摺木版技法。江戸時代後期に浮世絵版画の主要な技法となり、「吾妻(東)錦絵」の名で商品化されるに至り、一般向けに販売される浮世絵版画の代名詞となりました。
読み方:主版=おもはん/多色摺=たしょくずり/吾妻(東)錦絵=あずまにしきえ
〈は行〉
版木(はんぎ)
浮世絵版画を摺るため、浮世絵師が描いた線や指定した色を摺るための板。堅くて反りが少ない桜材が用いられます。線が彫られた主版、色を摺るための色版があります。([116])
読み方:主版=おもはん
版下絵(はんしたえ)
浮世絵版画の主版(輪郭線)を作るため、浮世絵師が描いた肉筆の下絵。出版された場合には残存しないため現存遺品はほとんどなく、資料的価値が極めて高い作品です。([8][85][101][109])
読み方:主版=おもはん
版本(はんぽん)
版画で作られた本のこと。浮世絵版画のルーツはこの版本の挿絵で、次第に一枚絵へ発展しました。多種多様な版本があり、北斎が手がけた版本挿絵も、黄表紙、読本、洒落本、滑稽本、合巻、狂歌本、俳書、絵手本、芝居絵本、地誌など多岐にわたります。
版元(はんもと)
出版物の内容を企画し、絵師・彫師・摺師らの仕事を総合的に監修し、完成品を商品として売り出します。写楽をプロデュースした蔦屋重三郎が有名です。([32][74][116])
読み方:蔦屋重三郎=つたやじゅうざぶろう
拭きぼかし(ふきぼかし)
色版を摺る際に濃淡の階調をつける技法。湿らせた版木に絵具をのせて、にじんだ色を紙に摺り出します。画面に水平にかける「一文字ぼかし」や不定形にぼかす「あてなしぼかし」もその一種。([82][86])
〈ま行〉
武者絵(むしゃえ)
武将や豪傑を描いた絵のこと。『平家物語』の義経と弁慶、『曾我物語』の曾我兄弟など、歴史物語や説話で語られた英雄たちが題材となり、浮世絵草創期より人気の画題です。([10][91])
文字絵(もじえ)
“へのへのもへじ”のような文字で描く遊戯的な絵。葦や流水を文字で描いた葦手絵が発展したものとされ、人物の衣服や体などの描線に、文字を巧みに組み込んでいます。([43][67])
読み方:葦手絵=あしでえ
〈や行〉
読本(よみほん)
文章主体の長編小説。半紙本5~6冊で一編を成し、各冊に見開きで5点程の挿絵があります。物語の内容は、英雄譚、怪談物、仇討ち物、お家騒動など。([50-56][107])
北斎の幼少年期
〈1歳~19歳頃〉
北斎は宝暦十年(1760)9月23日に生まれました。出生地は江戸の本所割下水(現在の墨田区亀沢辺り)と伝えられています。幼名は時太郎、のちに鉄蔵に改めたとされ、6歳頃より好んで絵を描いたようです。貸本屋の小僧を経て、14歳頃から彫師の職に就いたとされ、安永四年(1775)刊行の洒落本『楽女格子』の文字彫りの一部を担当したとされます。なおこうした北斎の出自や幼少年期の動向については、主に一部の作品での記載や伝承に依っており、確実な資料はほとんどのこっていません。井上安治《(東京真画名所図解)本所割下水》明治十四~二十二年(1881~89)頃[永田コレクション]
明治時代の本所割下水の風景。この約120年前に北斎はこの地に生まれたと伝えられています。
Hokusai’s early years
幼少年期〈1歳~19歳頃〉-浮世絵師以前-
幼少年期
〈1歳~19歳頃〉
-浮世絵師以前-