葛飾北斎
かつしかほくさい
冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏
ふがくさんじゅうろっけい かながわおきなみうら
天保初期(1830~34)頃、大判錦絵、[永田コレクション]
Katsushika Hokusai
The series Thirty-six views of Mt.Fuji (Fugaku sanjūrokkei) : Under the wave off Kanagawa
[Nagata Seiji collection]
「冨嶽三十六景」は天保初期(1830~34)頃に版行された、富士山を主題とした揃物です。人気が高かったのか、当初想定された36図に10図を加えた全46図から成ります。多彩な富士を現出させる中で、従来の名所絵で重視された「名所性」に縛られない自由な場面設定が散見されるなど、風景表現の可能性を広げた記念碑的な揃物でもあります。集中の三役に挙げられるこの図も、そうした作品の一つです。
猛々しい自然のエネルギーが画面に横溢しています。巨大な波が飛沫をあげながら立ち上がり、大きな押送船も操舵不能のようです。近景では曲線や斜めの線により躍動する波を描き、遠景では水平のぼかしを背景に敷いて泰然とした富士の姿を浮かび上がらせています。近と遠、動と静の劇的な対比が本図の見所といえるでしょう。